運送事業の適正原価の定義と解説(適正運賃の計算の仕方)

適正原価の定義と解説 ② 運送事業の黒字化支援Blog

株式会社グリーンベル 代表取締役
葛西 宣行
2026年8月30日

1. 本稿の目的

 この論文は運送事業を適切に理解し、日本の経済発展の為に必要な物流事業者を健全に成長させる事を目的とし、その業界を取り巻く経営者やステークホルダーに対し、適正原価を簡単に理解できる様に運送事業の経済構造を纏めた物である。

 運送事業の原価構造を理解する上で、概ね大分類として7つの原価に纏め、運賃提示をする上で荷主にも分かりやすい構造で明示する為に設計した一つのモデルである。

 物流経費の中でも本論文では”輸送原価”つまりA地点からB地点まで物を動かす事業(運送)について基本的な原価構成を以下に定義し、適正原価を求める上で業界全体で定めなければならない重要ポイントを本論文で指摘する。

2. 運送事業者の適正原価を計る上で理解しておきたい、7つの輸送原価

表1 7大原価の分類

原価科目内 容原価性
①人件費ドライバーの給料及び社会保険等製造原価
②燃料費軽油+軽油引取税製造原価
③車両費トラックの償却やリース料製造原価
④保険料任意保険や貨物保険製造原価
⑤修繕費整備費、消耗品費製造原価
⑥高速代ETCやフェリー利用料製造原価
⑦販管費その他の経費全て 運ぶ経費以外はここ間接原価

 運賃に対し、7つの原価構成を作り、荷主でも荷物を運ぶにあたりどれくらいのコストがかかるのか想像が付く様に運送業界全体で、一つ共通した升を定義し、運賃に対する原価構成比を簡単に比較出来る様にしたものが7大原価である。

 国土交通省による運送事業者の決算報告をまとめた物より、更に大きくまとめ、分かりやすくした物である。

3. 生産性を計る上で必要な直接原価と間接原価の定義

 運送事業者の輸送原価は製造原価(直接原価)と販売管理費(間接原価)に分け、7大原価では表の①~⑥までが製造原価、⑦は間接原価となります。

 直接原価である製造原価は物を運んだ分増える売上に比例する原価である。トラックのリース料などは月次コスト(固定原価)と見られているケースも少なくないが、売上を上げる為に増車していくリース料などは売上に比例する変動原価であり、本論文ではトラックや自動車保険、自動車諸税などは売上を上げる上での製造原価と定義し、駐車場や営業所などの中期的採算要素を間接コストの部類に分け、1カ月単位で売上に比例するコストを目安の範囲として定義した。

 運送事業の会計を取り巻く会計事情は税理士による取りまとめた物が多く、運送事業の会計に不慣れな税理士も多く、この基本的な製造原価と販売管理費の仕訳を運送業界で定義しておく事で、年次報告などの集計に曖昧な科目を無くす事が出来、日本の物流産業の状況の可視化の精度が上がり、適切な輸送原価を把握する上でも必要な定義である。

※参照:論文「運送事業者の正しい会計指導要綱」

 2028年6月までに運送事業者は輸送原価を下回らない運賃提示をしなければならず、適正を示す上で、業界全体で、輸送原価の表記の仕方及び、業界全体の会計の測りをある程度整えておきましょう。

4. 輸送原価の適正を測る上での極めて重要なポイント ”減価償却率”

4.1 トラックの償却を法定耐用年数か、経済耐用年数にするか?

 輸送原価の適正値を決める上で極めて重要なのが車両を何年で償却するのか?である。”適正”を語る上で税務上の計算式(法定償却耐用年数)を採用するのか、実質経済耐用年数割を採用するのか?で大きく輸送原価は変わり、5年リース時と15年の平均的な経済耐用年数との差分は運賃対比10%~30%程度の開きが生じる。近年のトラックの値上りは更に進みその差分を持って更新しなければならない。

 2020年までの売上に対する減価償却及びリース料を加算した車両費は全国平均7%前後(トラックの平均寿命15年弱)であり、(全ト協による分析資料に基づいた運賃/車両費率)その時の新車の5年リース料や償却は概ね運賃の20%であった。トラックの値上りは現在は2020年比1.5倍~1.7倍にもなり、運賃の値上りでは賄いきれない現状がある。

 ”適正値”を決める上で極めて重要な定義を誰かがしなければならず、10年を一つの目安に仮定した時に修繕費や償却費の逆転ポイントなどを加味し、10年償却率で試算するのはある程度妥当として定義してみる。現在2026年8月時点での運賃に対する車両価格の10年償却見合いは運賃の15%ぐらいが適正かと思われる。

4.2 販管費率(間接コスト率)を何%に適正値とするのか

 全国トラック協会の分析資料でも示しているように、100台以上の企業と20台未満の企業では間接コスト率は約2倍の開きがある。平均値で取ると運賃の15%であるが、中央値でとると、ほとんどの運送事業者が中小零細であり、その販売管理費率は18~23%である。100台以上の大手企業の8%前後と比較するとこの差分をどこに置くか!という定義が必要である。

また7大原価や販管費に含まれない経費”その他”なども考慮すると、売上に対する販管費率は10~50台未満の運送事業者の平均値を取ると概ね運賃の20%が適正の原価と思われる。

 2028年に向けて輸送原価の適正値とは何をもって測るのか?定義する上でこの2点が決めておかなければならない最重要ポイントである。

 また物流を受注する上で、荷主より安心して任されるのは、自社物流に協力会社の集客力を持った大手運送事業者が一般的であり、サービス提供力、安定感などが優位を持ち、協力会社に営業手数料を取るのは必然であり、営業せず受注出来る運送事業者はその範囲下で2次受け運賃となる事は理解した上で、元請けは荷主に適正な運賃を提示できる環境づくりも必要である。

5. 輸送原価の計算方法

表2 7大原価の算定方法

原価科目算 定 方 法
①人件費これは給料(日当)に社会保険会社負担分を足した物
②燃料費使用するトラックの燃費を事前に計り、当日の走行距離で燃料の使用分を割り出しましょう。
③車両費月の償却費やリース料を月の稼働日数で案分し1日の車両費を定義しましょう
④保険料任意保険及び貨物保険の1日分 車両保険などを抜く(運送事業者のリスク)事は避けたい
⑤修繕費運賃の6%を目安に計上 全国での平均値となり、車両15歳平均がこれである。
⑥高速代実費利用分
⑦販管費①~⑥以外の全部の経費はここで集計し、運送事業における経費は①~⑦に全て置く

 この7大原価を基本形とし、日々は走行距離と高速代の入力で輸送原価が分かる物としておく。

 A地点からB地点まで物を動かす。これが輸送原価を表現する物である。

※参照:運送会計.com 原価計算アプリ

6. 運送会社が直面する拘束時間、労働時間のリスク負担について

 運送事業において事業当事者は非常に不安定な環境での労働及び管理をしなければならず、荷主環境による待機や遅延、道路や天候などの環境による長時間化のリスク負担について誰が負担するのか? という課題がある事にも着目しなければならない。

 荷主環境を明確にする為に各デジタコメーカーと一般社団法人運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)で荷待ち情報の共有化などは進み、タコグラフ情報のクラウド共有の整備などで荷主サイドの環境は可視化に近づいてきており、荷主からの配慮も改善方向ですが、交通環境や気象環境などのアクシデントは回避出来ず、翌日の安全配慮は誰がするのか? 翌日は減らして良いのか? 代わりを立てるのか? 運送事業者の責任として、交通環境、自然環境について責任を負うのであれば、その準備負担についてみて見ぬ振りは出来ず、この環境リスクをいくらに定義するのか?を決めてく必要があります。

 運送事業者はリスク負担準備コストとして、一定の稼働リスクを含んだ予備費を確保すべきであり、その割合を業界で定義しておけると望ましい。

7. 運送事業の収益モデル(例)

 大型トラック 走行距離200km 高速道路利用4000円 トラックのリース(償却)1,700万の新車の5年リース月額32万 25日稼働のケース

表3 大型車1台1日あたりの収益モデル試算(税抜)5年リース

項 目金額(円)算 定 根 拠
運賃70,000
①人件費23,00010h労働目安(残業2h付加)20,000の日当+社保15%(会社負担分)
②燃料費9,333燃費3km/ℓ、給油単価140円/ℓ
③車両費12,80032万の(5年)リース料の25日割
④保険料2,0005万円保険料の25日割
⑤修繕費4,200運賃7万の6%(全国平均値を予算とする)
⑥高速代4,000実費
⑦販管費14,000運賃の20%
合計69,333~⑦の合計(税抜)
利益667営業利益率1%

 運送事業者は雇用してからドライバーとして一人立ちさせるまでも研修費用、健康診断、トラックの準備と前後のコストやトラックの故障や事故による不稼働リスク、予備車の準備など営業利益率が1%では賄いきれない。 適正利益率は10%は確保させたい。

表4 大型車1台1日あたりの10年償却を仮定とした収益モデル試算(税抜)

項 目金額(円)算 定 根 拠
運賃70,000
①人件費23,00010h労働目安(残業2h付加)20,000の日当+社保15%(会社負担分)
②燃料費9,333燃費3km/ℓ、給油単価140円/ℓ
③車両費6,4005年リースの半分と仮定(10年償却)残価や金利等は含めず
④保険料2,0005万円保険料の25日割
⑤修繕費4,200運賃7万の6%(予算)
⑥高速代4,000実費
⑦販管費14,000運賃の20%
合計62,933~⑦の合計(税抜)
利益7,067営業利益率10.1%

10年償却でようやく保てる正常な事業モデルで、5年償却制度の見直しも必須である。

8. 結語

 運送事業の運賃を計る上で最低限この構造を定義した上で、適正価格を提示出来る様に業界及び業界を取り巻く荷主や金融機関に理解して頂きたい構図であります。

 安全を担保するコストはこの前提に成り立っており、国が指定した事業であるからこそ、適正な原価を下回る様な事業運営は業界全体として避ける取り組みをしていかなければなりません。

 物流企業及び荷主企業に向けて、輸送原価の計算方法や、簡単に使えるアプリケーションなどを活用して、適正運賃を理解して頂き、物流業界の健全な発展を社会全体で守っていく事を目的に本論文を執筆した。

株式会社グリーンベル
グリーンオートリース株式会社
株式会社グリーンベル物流
代表取締役 葛西 宣行

参考資料

論文「運送事業者の正しい会計指導要綱」
運送会計.com 原価計算アプリ
全国トラック協会

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